相談に訪れたYさん62歳は、家族経営の飲食店を営んでいます。
Yさんがお金を借りたのは今から9年前のことでした。
店舗改装にあてる資金150万円を常連客で公私ともに親しくしていたKさんから借り入れました。
Yさんは約束どおり毎月3万円ずつKさんの口座に振り込む形で返済していました。
しかし、貸主のKさんが7年前に突然倒れ、意識不明で入院。
お見舞いに行ったYさんは、付き添っていた奥様に残りの借金全額を手渡しで返済しました。
その後、Kさんは意識が戻ることなく亡くなられてしまいました。
このように完済し終えたはずの借金だったのですが、最近Kさんの息子さんがお店に訪れて借金の返済を迫られたと言います。
もちろんYさんはKさんの入院中に全額返済したことを説明しましたが、息子さんは証拠がないと納得してもらえませんでした。
お金を受け取った奥様はすでに他界しており、借金返済の事実を知る人は他にはいません。
7年前に借金を完済したYさんですが、その事実を知らない息子さんにわかってもらうだけの証拠がないのです。
借用書はまだ息子さんの手元にあります。
Yさんは奥様にお金を渡した時に受取書にサインをもらったそうですが、その受取書は紛失してしまって手元にはありません。
息子さんが持参した借用書と預金通帳だけを見ると、7年前から返済が滞っているように見えるのです。
相談の結果、息子さんには「改めて借金完済の事実を主張しつつも、返済を認めない場合には時効を援用する」旨の内容証明郵便を出しました。
内容証明を受け取った息子さんからは「時効は10年ではないのか」と言う反論がありました。
借金の消滅時効は、個人間の借り入れの場合10年です。
ただし貸主が個人でも、借りる側が商売の為に借りた借金の時効は5年になります。
Yさんの場合、店舗の改装の為に借りたお金ですので、貸金業者ではないKさんからの借り入れも5年で時効にかかります。
時効の完成について納得した息子さんは、Yさんからの借金回収を諦めてくれました。
過去に完済した借金について返済を迫られた為、昔の事実関係を証明するよりも簡単な「時効援用」という方法で請求を免れた事例です。
きちんと完済した借金について「時効の援用」という手段を取るのは不本意に思われるかもしれません。
しかしながら、古い借金について返済の経緯を明らかにするのは困難な場合があります。
特に今回の場合は実際のお金を受け取った奥様が他界されており、証拠になるはずの受取証も紛失してしまっているため、このような手段をとりました。